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渋谷は変わり続けているが、”428″の世界はそれでも変わりはしない

文●いちえもん 編集●ハッチ

 『428 ~封鎖された渋谷で~(以下、428)』は筆者の好きなゲームであり、思い出に残るゲームでもある。5本指に入る傑作だと考えている今日この頃だ。

 本作は旧チュンソフト(現スパイク・チュンソフト)が手がけたテキストアドベンチャーゲームだが、驚くべきは、約17年前の2008年に発売されたことだ(※注)。「昨日のことのように……」は大袈裟な表現だが、少なくとも”数年前のゲーム”だとずっと思い込んでいた。月日が経つのはほんとに早い。まさに「あっという間」だ。

2008年当時の渋谷が舞台
実写の背景を採用していることも特徴のひとつ。映画やドラマの場面を切り取ったようなイメージだ

 あっという間で思い出したが、ゲームの舞台である渋谷もすさまじい勢いで変化している。

 2008年に428がリリースされてから17年後の2025年。現在の渋谷は、東急グループ主導の再開発プロジェクトが進行中である。「100年に一度の再開発」と呼ばれるものだ。

 JR渋谷駅の改良をはじめ「渋谷ヒカリエ」、「渋谷スクランブルスクエア」、「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」といった複合施設の開業など、渋谷の街は変化を遂げている最中だ。428との出会いと同様、時の流れの早さにただただ驚く筆者である。

2025年現在の渋谷駅

 しかし、428に登場する渋谷は、筆者にとっては忘れられない場所だ。2008年当時の渋谷で繰り広げられる人間模様、魅力的な登場人物、記憶に残る場面の数々……。帰巣本能かもしれないが、ひとつひとつの場面を思い出すだけで428の世界に帰りたくなる。記憶を消した状態で、もう一度本作をプレイしたくなるのだ。

 現実の渋谷は変化し続けているが、428という世界は永遠に変わらない。その想いを多くの読者に伝えたいと思い、本稿を執筆するに至った次第だ。

(※注:2008年に発売されたWii用ソフトはセガが販売を担当。2009年以降はスパイク(現スパイク・チュンソフト)が販売を担当している)

『428~封鎖された渋谷で~』という名作を振り返る


 428は渋谷で発生した誘拐事件を皮切りに、登場人物たちの物語が複雑に絡み合う群像劇だ。

5人の主人公のシナリオを読み解いていく

 登場人物は質実剛健の刑事、渋谷を愛する青年、誘拐された娘の父親、正義感あふれるフリーライター、謎が多すぎるタマの5名。刑事ドラマ的なシリアスなものから、拍子抜けするコミカルなものまで、多種多様なシナリオが同時並行で進行する。

正義感が強い新米刑事の加納 慎也。渋谷で発生した誘拐事件を捜査するが、恋人の父親が渋谷に来ていて……
渋谷をこよなく愛する青年、遠藤 亜智。元チーマーのヘッドだったが、現在は毎日渋谷の清掃活動をしている。ゴミ拾いの最中、誘拐事件に巻き込まれる
熱血すぎるフリーライター、御法川 実。恩師の危機を救うべく、渋谷で複数のスクープを取材することに
「大越製薬」の研究所長、大沢 賢治。誘拐された姉の大沢 マリア、妹の大沢 ひとみの父親でもある
ネコの着ぐるみをきた謎の人物、タマ。とある事情で胡散臭いバイトをしている

 ある主人公の選択肢が、他の主人公のシナリオに影響を与えることもある。選択肢によってはバッドエンドへまっしぐら、なんてことも……。各主人公のシナリオを読みつつ、分岐の選択を行う。1人1人のシナリオを交互に読みながら、グッドエンドへと導くことが目的だ。

随時発生する選択肢が、登場人物たちの運命を決める

 ちなみにグッドエンドはたったひとつで、それ以外は全部バッドエンドだ。9割ぐらいがバッドエンドではないだろうか。バッドエンドは文字通り最悪なのだが、バッドエンドをコンプリートすることも428ならではの楽しみ方だ。

誤った選択をするとバッドエンドになる。初見の人は、この画面をイヤというほど見ることになるだろう
バッドエンドは後味が悪いものもあるが、笑えるようなものも。結末の内容はさまざまだ

 テキストアドベンチャーの粋を超えた面白さは、発売から17年経ったいまも衰えてはいない。アクション、ミステリー、サスペンス、コメディのジャンルをバランスよくまとめあげたシナリオ、ジャンルにマッチする音楽、目に焼き付く実写の背景は完成度が高く、クリアするたびに心地よい充足感を得られるのだ。

 筆者が考える428の面白さは、”人生賛歌”という裏のテーマ。本筋はサスペンスだが、登場人物たちが織り成す人間ドラマも魅力のひとつだ。明日という希望に向けて奮闘する姿や心温まる人情に共感することもあれば、感動を覚えることもある。人間の喜怒哀楽をしっかり描いているところが要因と言える。

誘拐事件の真相を追うサスペンスがメイン
拍子抜けするようなギャグも豊富

 428、ならびに本作の原点である『街 ~運命の交差点~』には、現代を生きる人間に宛てた希望のメッセージが込められている。人生は何が起こるかわからないけれど、それでも生きる意味は十分にある。そういった普遍的な意味を教えてくれるからこそ、428は人生のバイブルにふさわしいゲームだと常々思うわけだ。

2008年・2025年の渋谷を比較してみた


 先日、筆者は別件の取材で渋谷を訪れた。平日にもかかわらず、渋谷の街は多くの人であふれかえっていた。渋谷駅周辺は多くの人で混雑していて、すり抜ける余裕がないほどだ。この光景を見るだけで、渋谷に来たという実感がわいてくる。

改修中の渋谷駅
渋谷といえばスクランブル交差点

 2025年現在の渋谷駅は構造物の撤去や改札の移設など、大規模な工事の真っ最中だった。「東急東横店」は解体され、ハチ公のレリーフは撤去され、モヤイ像は「渋谷フクラス」西側の広場に移設されている。渋谷は仕事やプライベートでよく来るのだが、見慣れていたシンボルが知らぬ間に変化していることに驚くしかなかった。

428では、解体前の東急東横店を拝むことができる
2025年現在、東急東横店は解体済みだ

 その一方で、1934年(昭和9年)から渋谷駅を見守り続けていた「忠犬ハチ公像」は、いつもと同じ場所にあった。ハチ公像は428の始まりの場所として知られている。

 ハチ公像自体はそのままだが、唯一変わっていたのは周辺の環境だ。2008年当時、ハチ公像の周辺には約70種類の植物が植えられてあった。公園のような外観だったのをよく覚えている。以下の画像を見てピンときた人は少なくないのではないだろうか?

2008年当時のハチ公像

 しかし、2025年現在は、工事現場で見かける仮囲いが設置されている。仮囲いには昭和30年代の渋谷駅のモノクロ写真がプリントされており、その場にいるとタイムスリップした心地に。待ち合わせ場所といえばハチ公像だが、いまとなっては神聖なモニュメント、もしくはフォトスポットに昇華した気がする。

2025年現在のハチ公像

 ハチ公像で思い出したが、東急5000系車両のモニュメント、通称「青ガエル」も撤去されていた。青ガエルの跡地には、観光案内施設の「SHIBU HACHI BOX」が建っている。ちなみに428では、加納 慎也が青ガエル付近で張り込みをしていた。

青ガエルの跡地には、観光案内施設の「SHIBU HACHI BOX」が建っている

 別件の取材を終えたあと、428に登場していたスクランブル交差点や渋谷センター街、SHIBUYA 109、道玄坂などを散策してみた。

道玄坂
渋谷センター街
SHIBUYA 109

 現実の渋谷を舞台にしているからか、428に出てきた場所を歩いているとゲームの世界へ迷い込んだ気になる。428への愛が強ければ強いほど、渋谷が特別な場所に見えるようになるのだ。思い出の場所、故郷、マイホームと似たような感覚に近いかもしれない。

【まとめ】428の世界はそれでも変わりはしない

 再開発に伴い、大規模な工事が進行中の渋谷。2025年を迎えたいまもなお、渋谷は変化を続けている。しかし428の世界は変わっていない。

 2008年の発売から17年経っているが、本作の鮮度は抜群だ。テキストアドベンチャーとしての面白さは見事で、いつプレイしても感情を揺さぶる体験が味わえる。何十年、何百年経っても色あせない”名画”に等しいだろう。このままの状態でいい、と強く願う筆者である。

 4月28日午前10時、17年目の428が動き出す……。いまから本作をプレイしても遅くはない。渋谷を舞台にしたこの名作は、PlayStaion 4やPC(Steam)で遊べる。ぜひ多くの人に428をプレイしてほしいものだ。

 くどいかもしれないが、最後に大事なことを伝えたい。428はいいぞぅ……。

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